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サラ
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あいまい母音 /ə/
about /əˈbaʊt/ などの /ə/ は「あいまい母音」と呼ばれます。
この記事では英語の /ə/ の音質について、理解を深めるために複数の英語音声学書籍の記述を簡単に紹介します。
- この記事はらいひよ®︎の生徒さんの発音レッスンの補足的記事です。*全ての生徒さんにこのような説明をするわけではありません。
- 少し上級な内容です。音声学書籍の記述を紹介するのがメインの記事ですので補足解説は最低限です。
あいまい母音 /ə/ = schwa
あいまい母音は英語では schwa /ʃwɑː/ といいます。「シュワー」と呼ばれることも多いです。
- about
- sofa
- children
- moment
- possible
- contain
- method
- famous
牧野武彦著『日本人のための英語音声学レッスン』より引用
シュワー /ə/ 「ア」に近い?「ウ」に近い?
シュワー /ə/ は「ア」に近い、「ウ」に近い、などの説明を聞いたことがある人も多いと思います。
僕は、かなを当てるなら、
まずはシュワー /ə/ は曖昧な「ゥ」くらいで練習しましょう
と伝えることも多いですが、シュワー /ə/ は
「緩んでいる」ことが最も重要
です。
人によって、緩んだ曖昧な「ゥ」でイメージする方が上手く人もいれば、緩んだ曖昧な「ァ」の方がイメージしやすい人もいる印象です。
緩んでいればまずはOKなのですが、実際、「ア」に近いのか、それとも「ウ」に近いのか、それともどちらでもないのか、気になる人もいると思いますので音声学書籍の解説を紹介します。
schwa /ə/の音質について
少し難しい内容も含まれるので最初に要点を箇条書きで整理しておきます。
- 完全に弱化している場合は、「ア」と「ウ」の中間のような音質になる
- 綴り字に対応する強母音(主に短母音)を弱く言う感じにするのがよい
- sofa, China などのように語末にあるとき(普通は綴り字はa)は日本語の弱い「ア」に近くなる
- long ago のように /k, g, ŋ/ に隣り合っているときは「ウ」に近くなる
- animal, possible,analysisのように綴り字が i ないし y のときには「ウ」の響きを帯びて「イ」と「ウ」の中間に近くなることがある
牧野武彦著『日本人のための英語音声学レッスン』
さて、まずは牧野武彦著『日本人のための英語音声学レッスン』のシュワーについての記述です。
英語の弱母音の代表的存在で,母音の中で最も現れる頻度が高いものである。元来の強母音が弱まってはっきりした音質を失ったものをまとめて扱ったものであり、もともとの強母音の音質をわずかに残していることが多い。
したがって「ア」ではなく、綴り字に対応する強母音(主に短母音)を弱く言う感じにした方がよい。完全に弱化している場合は、「ア」と「ウ」の中間のような音質になる。
竹林滋著『英語音声学』
次は、竹林滋著『英語音声学』の記述です。
…/ə/ は発話のスタイル、テンポ,綴り字などに強く影響され…かなりの幅が生ずる。…
/ə/ は sofa, China などのように語末にあるとき(普通は綴り字はa)はかなり舌の位置が低くなり、[ɐ]くらいまで下がって日本語の弱い「ア」に近くなる。この傾向はRP、特に上流RPで強い。
この部末の[ɐ]の音色が /ə/ の代表的なものと思い込んでいる人が多いがそれは誤解で、語中および語頭で特に綴り字が i か e のときには日本語の「ア」よりもかなり舌の位置が高く「ウ」のような響きが加わったような非常に曖味な音になるが、もちろん仮名では表わせない。
今井邦彦著『ファンダメンタル音声学』
次に、今井邦彦著『ファンダメンタル音声学』の記述です。
…[k, g, ŋ]などの軟口蓋音(口の中の「天井」を使う音)の近くでは基本的 [ə] よりも舌の位置がだいぶ高い。
long ago の [ə] がその例である。ただしこれは軟口蓋音の影響で自然に起こる現象だから、発音にあたって意識する必要はない。
図4と見比べると、この環境の [ə] が日本語の「ウ」に近いことが知れよう。[k, g, ŋ]に隣り合った [ə] は大いばりで「ウ」と発音してよいわけである。
以下は僕が鉛筆で図5に図4の「ウ」を記入したものです。
竹林滋・斎藤弘子著『英語音声学入門』
次は、竹林滋・斎藤弘子著『英語音声学入門』のシュワー /ə/ の記述です。
to come, long ago のように軟口蓋子音 /k/, /g/, /ŋ/ に隣接するとやや高めの [ə̝] となり、逆に China, sofa のように語末では低くなる。この傾向は特に英音で著しく[ɐ]程度まで下がる(第26図参照)。
更に多少改まった話し方では完全に [a] まで弱化し切れずに、対応する強母音の音色をいくらか帯びることさえある。
特に animal, possible,analysisのように綴り字が i ないし y のときには /ə/ は「ウ」の響きを帯びて「イ」と「ウ」の中間…に近くなることがある。
一般に日本人は /ə/ は「ア」に近い音だと思っているが、この考え方から改める必要がある。これに似た日本語の母音は存在しない。
川越いつえ著『英語の音声を科学する』
次に、川越いつえ著『英語の音声を科学する』の記述です。
…とくに、綴り字が i, u ではイとウに近い音になることもあり、[ ɪ ]と表記する辞書もあるので注意が必要である。
Alan Cruttenden著『Gimson’s Pronunciation of English Eighth Edition』
最後に、Alan Cruttenden著『Gimson’s Pronunciation of English Eighth Edition』P. 138にも以下のような詳しい記述と図があるので興味がある人はぜひ読んでみましょう。
この本では 「歯茎音」alveolar consonants /t, d, n. s, z/ に関する記載もあります。
シュワー /ə/ とスペル
なお、Alan Cruttenden著『Gimson’s Pronunciation of English Eighth Edition』P. 138, 110にはシュワー /ə/ とスペルに関して以下のような図もあります。
シュワー /ə/ の出現頻度
シュワー /ə/ の出現頻度に関して、Alan Cruttenden著『Gimson’s Pronunciation of English Eighth Edition』P. 158, 159には以下のような図もあります。
イギリス英語での母音の出現頻度のデータではシュワー /ə/ は26.91%を占めるようです。
まとめ:/ə/の音質について
以下にまとめをもう一度載せます。
- 完全に弱化している場合は、「ア」と「ウ」の中間のような音質になる
- 綴り字に対応する強母音(主に短母音)を弱く言う感じにするのがよい
- sofa, China などのように語末にあるとき(普通は綴り字はa)は日本語の弱い「ア」に近くなる
- long ago のように /k, g, ŋ/ に隣り合っているときは「ウ」に近くなる
- animal, possible,analysisのように綴り字が i ないし y のときには「ウ」の響きを帯びて「イ」と「ウ」の中間に近くなることがある
発音・音声学書籍リスト
僕が読んでいる発音本・音声学書籍は以下の記事にリストにしてまとめていますので興味がある人はぜひご覧ください。
らいおん