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緊張母音・弛緩母音とは?
この記事では英語の緊張母音と弛緩母音(しかん母音)の違いについて簡単に整理します。緊張母音と弛緩母音という用語を聞いたことがない学習者も多いかもしれませんが、特に
- /iː/ vs /ɪ/
- /eɪ/ vs /ɛ/
- /uː/ vs /ʊ/
の3つの対立を考える時には非常に便利な概念です。
緊張母音・弛緩母音について、英語学習者が知っておきたいこと
この記事は便宜上、説明を「前半」「後半」の2つに分けたいと思います。「前半」は、まだこの段階で緊張母音と弛緩母音について、よく知らない、あるいは聞いたことがあるが分かっていない、という方向けの説明です。
発音向上が目的の学習者向けに、緊張母音・弛緩母音について僕が「英語学習者目線で知っておきたいこと」について説明します。後述しますが、本記事の結論としては先ほど紹介した3つの対立を意識すれば十分、です。ほとんどの方は「前半」のみで十分かと思います。
「後半」は音声学書籍を引用して補足します。少し難しい説明に感じる人も多いと思うので興味がある方のみご覧ください。なお、「前半」は一般学習者が無理なく理解できるように「分かりやすさ」を優先していますのでご了承ください。
ひよこ
緊張母音とは:tense vowel
まず、「緊張母音」について説明します。「緊張母音」は、安井泉著「音声学」(開拓社)P. 22では、
舌や唇を緊張させて発音する母音
と定義されています。
英語では tense vowel と言います。
弛緩母音とは:lax vowel
次は「弛緩母音(しかん母音)」です。「弛緩母音」は、同じく安井泉著「音声学」(開拓社)P. 22を引用すると、
舌や唇から力を抜いて発音する母音
と説明されています。
英語では lax vowel と言います。
緊張母音と弛緩母音の分類
本サイトでは以下の「長母音」と「二重母音」を「緊張母音」に分類します。
- /iː/
- /uː/
- /ɔː/
- /ɑː/
- /ɚ/
- /eɪ/
- /oʊ/
- /ɔɪ/
- /aɪ/
- /aʊ/
そして、それ以外の以下の母音を「弛緩母音」に分類します。
- /ɪ/
- /ɛ/
- /ʊ/
- /ʌ/
- /ə/
- /æ/
/iː/ vs /ɪ/ と /eɪ/ vs /ɛ/ と /uː/ vs /ʊ/ の対立
さて、上記の分類を見て、覚えるのが難しそう、と感じた人もいると思います。しかし、本記事冒頭でもお伝えした通り、これらの全てを覚えなくても大丈夫です。まずは、
- /iː/ vs /ɪ/
- /eɪ/ vs /ɛ/
- /uː/ vs /ʊ/
の3つの対立をしっかり整理するようにしましょう。この3つのペアの発音を区別し、聞き分けることができれば十分です。
らいおん
/iː/ vs /ɪ/ の違い
/i/ の発音を含む語
/ɪ/ の発音を含む語
/iː/ vs /ɪ/ ですが、この違いは「イー」vs 「イ」のように、音の長さが違うだけだと思っている人も多いと思います。しかし、それは十分に正確ではありません。これらは、
音の長さというより、音質が違う
ことがポイントです。
/iː/ は「緊張母音」なので、発音する時に舌や唇の緊張が伴います。
一方 /ɪ/ は「弛緩母音」なので、舌や唇から力を抜いて「ダラっと発音」するイメージです。一般的に、/iː/ よりも /ɪ/ の発音が苦手な学習者が多いでしょう。
僕の経験上、/ɪ/ が苦手な生徒さんは、舌の位置などを指摘するよりも、「ダラっと発音」するように指摘した方が断然 /ɪ/ の音色に近づく印象です。
僕はレッスンではシュワーを3回ほど発音させてから、
/ɪ/ はシュワーを発音するようにダラっと、シュワーで「ィ」と言うイメージ
で発音してください、と言っています。
シュワーがきちんと緩んで発音できている人なら /ɪ/ もこれでかなり改善すると感じます。なお、/ɪ/ の舌の位置などについては、安定してダラっと「ィ」と言えるようになってから説明しています。
/eɪ/ vs /ɛ/ の違い
/eɪ/ の発音を含む語
/ɛ/ の発音を含む語
次に /eɪ/ vs /ɛ/ ですが、/eɪ/ の第1要素 /e/ と /ɛ/ は同じ音だと思っている人も多いと思います。しかし、それは十分に正確ではありません。これらは、/iː/ vs /ɪ/ のペアと同様、
音の長さというより、音質が違う
ことがポイントです。
/eɪ/ は「緊張母音」なので、発音する時に舌や唇の緊張が伴います。
一方 /ɛ/ は「弛緩母音」なので、舌や唇から力を抜いて「ダラっと発音」するイメージです。一般的に、/eɪ/よりも /ɛ/ の発音が苦手な学習者が多いでしょう。
/ɪ/ の発音と同様ですが、僕の経験上、/ɛ/ が苦手な生徒さんは、舌の位置などを指摘するよりも、シュワーを発音するように「ダラっと発音」するように指摘した方が断然 /ɛ/ の音色に近づく印象です。
/ɪ/ の発音練習同様、僕はレッスンではシュワーを3回ほど発音させてから、
/ɛ/ はシュワーで「ェ」と言うイメージでダラっと発音
してください、と言っています。
シュワーがきちんと緩んで発音できている人なら /ɛ/ もこれでかなり改善すると感じます。
/uː/ vs /ʊ/ の違い
/uː/ の発音を含む語
/ʊ/ の発音を含む語
最後に /uː/ vs /ʊ/ ですが、この違いは「ウー」vs 「ウ」のように、音の長さが違うだけだと思っている人も多いと思います。しかし、それは十分に正確ではありません。これらは、/iː/ vs /ɪ/ のペアと同様、
音の長さというより、音質が違う
ことがポイントです。
/uː/ は「緊張母音」なので、発音する時に舌や唇の緊張が伴います。
一方 /ʊ/ は「弛緩母音」なので、舌や唇から力を抜いて「ダラっと発音」するイメージです。
/ʊ/ が苦手な生徒さんも、舌の位置などを指摘するよりも、やはり「ダラっと発音」するように指摘した方が断然 /ʊ/ の音色に近づく印象です。
僕はレッスンではシュワーを3回ほど発音させてから、
/ʊ/ はシュワーのダラっとさをキープ・意識して、「ゥ」と言うイメージ
で発音してください、と言っています。
シュワーがきちんと緩んで発音できている人なら /ʊ/ もこれでかなり改善すると感じます。
前半のまとめ:/ɪ/ /ɛ/ /ʊ/ の「弛緩母音」はダラっと発音
お疲れ様でした。ここまで解説してきたように、まずは、
- /iː/ vs /ɪ/
- /eɪ/ vs /ɛ/
- /uː/ vs /ʊ/
の3つの対立を「緊張母音と弛緩母音の違い」を意識して区別するのが重要です。そして、苦手な人も多い、
/ɪ/ /ɛ/ /ʊ/ の「弛緩母音」は、まずはシュワーの発音でダラっと緩みを感じ取ってから、その後シュワーで「ィ」「ェ」「ゥ」と発音
するようにすると上手くいくでしょう。
シュワーをマスターしてから/ɪ/ /ɛ/ /ʊ/ の発音を練習すべし
また、逆に言えば、/ɪ/ /ɛ/ /ʊ/ の発音をマスターしたいなら、「シュワー」がしっかりと発音できる必要があります。
シュワーの練習
↓
/ɪ/ /ɛ/ /ʊ/ の練習
という順番がスムーズだと思います。
らいおん
緊張母音と弛緩母音の分類は研究者の中でも意見が分かれる?
さて、ここまでこの記事では「緊張している」や「緩んでいる(ダラっとしている)」感じ、などという表現を使ってきました。
- /iː/ vs /ɪ/
- /eɪ/ vs /ɛ/
- /uː/ vs /ʊ/
の3つの対立なら、「緊張」と「緩み」というのは、なんとなく感覚的にも理解ができると思います。
しかし、先ほどの分類にあった他の音、例えば、/æ/ などはどうでしょうか?便宜上、「弛緩母音」に分類しましたが、発音してみると、なんだか「緊張」している、とも感じませんか?僕の個人的な「感覚」では、緩んでいるというより緊張していると感じます。
実は、この緊張母音と弛緩母音の分類は研究者の中でも意見が分かれます。このことに関して例えば、Celce-Murcia et al. (2010) を見ると、
The classification of tense and lax vowels is somewhat debated by linguists. Where there are counterparts (/iy, ɪ/, /ey, ɛ/, /uw, ʊ/), the distinction is clear. However, there is some disagreement as to whether /ɑ/, /ɔ/, and /æ/ should be considered as tense or lax.
という記述があり、特に、 /ɑ/, /ɔ/, /æ/ が「緊張母音」か「弛緩母音」かについては意見が分かれると述べられています。
ちなみに、この書籍では /æ/ は「弛緩母音」= lax vowel に分類されています。
/æ/ は「緊張母音」か「弛緩母音」か?
/æ/ に関して、他の書籍も見てみると、東後勝明監修「英語発音指導マニュアル」では、「緊張母音」に分類されています。
また、以下で紹介するピーター・ラディフォギッド著(竹林 滋/牧野 武彦 共訳)「音声学概説」P. 106では「弛緩母音」に分類されています。
「緊張母音」か「弛緩母音」は音韻的な分類?
実は「緊張母音」か「弛緩母音」は、基本的に音韻的な分類に基づいたものと言えます。(「音韻」がピンとこない方はここから先は読まなくて大丈夫です!)
ピーター・ラディフォギッド著(竹林 滋/牧野 武彦 共訳)「音声学概説」の用語解説 P. 349には
緊張 (tense):特定の音声的相関のない用語で、母音を音韻論的根拠によって分類する時に用いられる。英語では、緊張母音は bee, bay, bah, saw, low, boo, buy, bough, boy, cur など、強勢のある開音節に現れ得るものである。
(ただし、用語解説は大まかな定義として参考にするように、との注あり)
という記述があり、「緊張母音」=「強勢のある開音節に現れ得るもの」としています。
P. 105にも「緊張母音」と「弛緩母音」について、
これらの用語は、実際は英語において異なる振る舞いをする2つのグループの母音を区別するための分類名称に過ぎない。グループ間には音声的な違いがあるのだが、それは単なる「緊張度」というものではない
という記述があります。
ひよこ
「音声学概説」の緊張母音と弛緩母音の分類
最後に、「音声学概説」P. 106の「アメリカ英語における、強勢のある音節の緊張母音と弛緩母音の分布」という表を以下に載せておきますので参考にしてみてください。
まとめ
お疲れ様でした。ここまでいろいろお話しましたが、本記事での結論としては、学習者はまずは、
- /iː/ vs /ɪ/
- /eɪ/ vs /ɛ/
- /uː/ vs /ʊ/
の3つの対立を「緊張母音と弛緩母音の違い」を意識して区別するのが重要だと考えています。ぜひ参考にしてみてください!
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