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Canadian raising:カナダ英語では about の発音が aboot のようになる?
この記事ではカナダ英語の発音の最も大きな特徴の1つと言われている Canadian raising について簡単に整理します。Canadian raising と聞くと少し難しく感じると思いますが、「カナダ英語では about の発音が aboot のようになる」というようなことを1度は耳にした人も多いのではないでしょうか?
実際、「about の発音が aboot のようになる」というのは少し大げさで、かなり誇張された発音のことですが、カナダ英語でaboutの二重母音/aʊ/などが標準アメリカ英語とは異なる音質にしばしばなることは確かです。
Canadian raisingの発音:音声サンプル
百聞は一見にしかずということでまずここで Canadian raising の実際の音声サンプルを聞いてみましょう。以下で様々なバージョンを示します。
なお、Canadian raising は名前の通りカナダ英語で聞くことが多いですが、アメリカの一部の地域やその他の国でも聞かれる現象でカナダに限ったことではないことは覚えておきましょう。
aboutの二重母音/aʊ/:①raisingなし→②Canadian raisingあり
outの発音:①raisingなし→②Canadian raisingあり→③誇張されたCanadian raising
LikeANativeSpeakerのYouTube「Canadian raising」より
aroundとaboutの発音:アメリカ英語(raisingなしでどちらの/aʊ/も同音)
aroundとaboutの発音:カナダ英語(aboutで/aʊ/にraisingあり)
houseの発音:アメリカ英語(/aʊ/でraisingなし)
houseの発音:カナダ英語(/aʊ/でraisingあり)
Mad English TVのYouTube「Canadian raising」より
eyeの発音:raisingなし
iceの発音:raisingあり
Geoff LindseyのYouTube「Canadian Raising」より
bikeの発音:アメリカ英語(raisingなし)
bikeの発音:カナダ英語(raisingあり)
Canadian raisingとは
さて、それではCanadian raisingとは何かについて、詳しく見ていきましょう。York大学 の「Canadian raising and other oddities」という記事では Canadian raising は、
Canadian raising is a phonological process characteristic of one variety of Canadian English, in which the onsets of the diphthongs /ay/ and /aw/ raise to mid vowels when they precede voiceless obstruents (the sounds /p/, /t/, /k/, /s/, and /f/).
と説明されています。
この説明がピンとこない方のために超ざっくり噛み砕けば、
と言えます。
Canadian raisingで二重母音/aɪ/ /aʊ/ の舌の位置が高めに
「舌の位置が高くなる」ですが、これは音声学の知識や特に母音図の見方が分からない場合ピンとこない方も多いと思います。以下はWikipedia「Canadian raising」の記事にある図ですが、まずはざっくり、Canadian raising は
- /aɪ/ → /ʌɪ/
- /aʊ/ → /ʌʊ/
になること、と整理するとよいでしょう。
ここまでをふまえて、以下の音声を聞いてみましょう。
/aɪ/の発音:raisingなし
/aɪ/の発音:raisingあり
aboutの二重母音/aʊ/:raisingなし → Canadian raisingあり
Canadian raisingが起こった二重母音の第一要素の開始点は /ʌ/ や /ə/ などでかなり変動があることに注意
実際、二重母音の第一要素の開始点は /ʌ/ や /ə/ などで個人差や単語差など変動はあるので、
- /aɪ/ → /ʌɪ/ ~ /əɪ/
- /aʊ/ → /ʌʊ/ ~ /əʊ/
になる、と整理してもいいでしょう。
/aɪ/ → /ʌɪ/ というよりむしろ /aɪ/ → /əɪ/ 、そして /aʊ/ → /ʌʊ/ というよりむしろ /aʊ/ → /əʊ/ のように聞こえる時もしばしばですが、本記事のこの先は便宜上 /aɪ/ → /ʌɪ/ と /aʊ/ → /ʌʊ/ で話を進めます。
Canadian raisingが起こると口の開き方が狭くなり、アゴはあまり落ちないと考えてみる
さて、
- /aɪ/ → /ʌɪ/
- /aʊ/ → /ʌʊ/
になる、と言われてもピンとこない時は、以下のような感じで整理してもいいかもしれません。
/aɪ/ → /ʌɪ/
これでもまだピンとこない時は、ちょっと無理やりですが
/aɪ/:アーィ
/ʌɪ/:アィ
のようなイメージで考えてみましょう。/ʌɪ/:アィの方が素早く発音されるイメージです。
riseとriceの発音:カナダ英語(riceでraisingあり)
/aʊ/ → /ʌʊ/
同じことが /aʊ/ → /ʌʊ/ でも言えます。
これでもまだピンとこない時は、ちょっと無理やりですが
/aʊ/:アーゥ
/ʌʊ/:アゥ
のようなイメージで考えてみましょう。/ʌʊ/:アゥの方が素早く発音されるイメージです。
houseの発音:アメリカ英語(raisingなし)
houseの発音:カナダ英語(raisingあり)
全てのカナダ人がCanadian raisingをするわけではない
ところで、先ほどのYork大学の記事で
Although this phenomenon has come to be called “Canadian” raising, the name is unfortunately too general, as this manner of speech is not shared by all Canadians.
という記述があるように、「全てのカナダ人が Canadian raising をするわけではない」ので「カナダ英語ではCanadian raisingがいつも起こる」のような過度な一般化をしないように注意しましょう。
Canadian raisingは個人差があり、また、「東京外大の言語モジュール カナダ英語の発音の特徴」ではCanadian raisingは最近では特に若い世代のカナダ英語話者のあいだでは減少傾向にある、という説明もされています。
カナダ人でCanadian raisingが起こっていない音声
以下の音源はオンライン英語スクールらいひよ®のカナダ人ネイティブの、
という音声です。
ここまでで紹介してきた語もいくつか入っていますが raising は起こっていないのが分かります。
厳密にはカナダ英語のaboutがabootの発音になるわけではない
また、York大学の記事でもあるように、
To American ears, the Canadian pronunciation of about often sounds like aboot, but this is only an illusion.
アメリカ人の耳にはカナダ英語発音の about は aboot のように聞こえるが、これは思い違いに過ぎない。
厳密には about が aboot の発音になるということではなく、あくまでも about が aboot の発音の”ように聞こえる”、と捉えるとよいでしょう。詳しくは上記記事をぜひご覧ください。
Canadian raisingの記事
先ほど紹介したWikipedia「Canadian raising」の記事も参考になるのでこちらも読んでみましょう。
2語以上の複合語でもCanadian raisingは起こる
なお、2語以上の複合語でもCanadian raisingは起こるようです。
high schoolの発音:raisingあり → raisingなし
弾音(flap)の前のCanadian raising
これは上級者向けと思いますが、弾音の前のパターンです。writerの方はもともと/t/で無声音なのでrasiingが起こるようです。詳しくはWikipediaのCanadian raisingの記事もご覧ください。
riderとwriterの発音:riderはraisingなし、writerはraisingあり
Canadian Shiftとは
また、関連して Canadian Shift というカナダ英語での母音シフトがあります。これは特にカナダ都市部の若い世代の話者で確認されている現象ですが、例えば、以下の動画のように、milk の発音が melk のように聞こえたりします。以下が Canadian Shift が起こっている例です。
動画全編はこちら ↓
また、Wikipediaの「Canadian Shift」の記事も参考になりますのでぜひ見てみましょう。
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