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らいおん
ひよこ
サラ
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本記事の構成
この記事では、まずざっくり「ニューヨークアクセントの特徴」を整理し、その後記事後半では英語学習者が知っておきたい「ニューヨークアクセントについての注意点」について深堀りしていきたいと思います。
サラ
ニューヨークアクセントとは
さて、まず New York Accent とはですが、New York City = 「ニューヨーク市」(とその近隣地域)で話される訛りのことを指します。後述しますが、ニューヨーク市には5つの区があり、主にその中で話されているアクセントです。本記事では
と呼びます。ニューヨークアクセントはアメリカ英語の方言の中でも特に特徴が顕著な方言の1つだと言われています。
ニューヨークアクセントの特徴
ニューヨークアクセントは様々な特徴がありますが、まず箇条書きでまとめてみましょう。以下のような特徴があると言われています。
- coffee vowel:coffee → cawwfee に
- /æ/ raising and tensing :/æ/ → /ɛə/ や /eə/ ( or to /ɪə/ ) に
- morningなどのR音を発音しない:non-rhoticity (or r-lessness)
- R音の挿入:r insertion (intrusive r)
- H音の脱落:h dropping
- /θ/ /ð/→ /t/ /d/ に:th-stopping
- hard g
- 語尾脱落
- curl と coil が同じ音に:coil–curl merger
- ニューヨーク特有の語彙
- 鼻にかかった感じ:nasality
- 番外編:速い発話スピード(特にマンハッタン)
らいおん
coffee vowel:coffee → cawwfee に
まずは最も有名な特徴の1つであると言える coffee や talk の母音についてです。ニューヨークアクセントでは
- talk → tawwk
- coffee → cawwfee
のように /ɔ/ の音の緊張度が高く、舌が引き上げられ母音が引き伸ばされます。
とも言われます。
/æ/ raising and tensing :/æ/ → /ɛə/ や /eə/ ( or to /ɪə/ ) に
次は cab /kæb/ など語の /æ/ の母音の発音についてです。/æ/ の音が舌が上寄りに持ち上げられ、緊張を伴い
と言われています。
このようになる語は他にも class, mad, lag, pan など様々な語がありますが、
ようです。
morningなどのR音を発音しない:non-rhoticity (or r-lessness)
アメリカ英語では基本的には park や better などのR音を発音しますが、ニューヨークアクセントでは
- morning → mawning
- river → rivva
のようにR音がない発音が聞かれます。
R音の挿入:r insertion (intrusive r)
morning などでR音を発音しないと思いきや、
- idea → idear
- soda → soder
などのように、本来R音がないところにRを挿入して発音するということもあるようです。このような現象は
と呼ばれます。
H音の脱落:h dropping
H音が脱落し、
- huge /hjuːdʒ/ → yuge /juːdʒ/
- human /hjuːmən/ → yuman /juːmən/
のように発音される
が起こることもあります。
ひよこ
/θ/ /ð/ → /t/ /d/ に:th-stopping
/θ/ /ð/ などの th音が /t/ /d/ になる th-stopping という現象が起こります。これによって
のようになります。
hard g
本来強く破裂する /g/ がないところで /g/ が発音されることがあります。例えば
のように hard g になります。Long の発音は本来 /lɔːŋ/ なので、 /ŋ/ の音で /g/ ではないのですが、Long Island で /g/ 音になっています。
同様に、singer/ˈsɪŋɚ/ の発音も本来 /ŋ/ の音なのですが hard g で -ger /-gɚ/ と発音されることもあるようです。
語尾脱落
going → goin や calling → callin のように語尾が脱落します。
curl と coil が同じ音に:coil–curl merger
かなり衝撃的な変化ですが、
- thirty-third → toity-toid
- curl → coil
のように /ɚː/ 音が変化することがあります。この時は、/ɔɪ/ というより /əɪ/ に近い音で発音されるようですが、現在では一部のコテコテニューヨーク訛りの人を除いてはなりすたれてきている現象のようです。
ニューヨーク特有の語彙
語彙の違いもあります。例えば、
- Are you on line? (列に並んでますか?)
- Fuhgeddaboudit (Forget about it を表す有名なニューヨーク的なフレーズ)
などが有名です。
サラ
鼻にかかった感じ:nasality
特に強いニューヨーク訛りは「鼻にかかった感じ」がある = nasality と感じる人も多いようです。
ニューヨーカーは発話スピードが速い?
ニューヨーカーは「発話スピード」が速いというイメージを持っている人もいると思います。特にマンハッタンでは”速い”発話スピードのニューヨーカーも多いともよく言われます。
このイメージ自体は間違いとは言えないと思いますが、実際に 全米での発話スピードを調べた調査などでは、ニューヨークは話すスピードで全米トップ5にも入らなかったというデータもあります。ちなみに1番話すのが速かったのはオレゴン州。
「ニューヨーカーは話すスピードが速い」と思ってる人も多いと思いますが、
…In fact, New York doesn’t even break the top five for that category.
ニューヨークは話すスピードで全米でトップ5にも入ってなく、「オレゴン」が最も速いという結果になった
続https://t.co/CTJyECwqeV pic.twitter.com/F4OrXjCV8S
— サラ🌐 著者「Q&Aサイトから読むアメリカのリアル」発売しました!🇺🇸 (@salah_backpack) July 24, 2021
ニューヨーカーはおしゃべり
ただ、ニューヨークは Most Talkative 部門で1位になっています。よって、ニューヨーカーは総じておしゃべりであるとは言えそうですが、発話スピードはあくまでも個人差が大きいと言えるかと思います。
らいおん
ニューヨークの5つの区:5 boroughs
さて、ここまでで、ニューヨークアクセントの主な特徴をカバーしましたが、ここでニューヨークを語る上で避けては通れないニューヨーク市の5つの区について触れておきましょう。
ニューヨーク市には5つの borough =「ニューヨーク市の5つの区」があり、
の5つを指すのですが、この5つの区によってニューヨークアクセントは異なる、と言われることもあります。
Wikipediaの Boroughs of New York City より
ひよこ
The accents of the 5 boroughs of NYC
以下の動画では実際にニューヨーカーが5つの句によるアクセントの違いのイメージをデモしてくれています。あくまで目安として参考にしてみてください。
らいおん
ひよこ
ニューヨーカーは本当にニューヨークアクセントで話すの?
さて、実はここからがある意味で本題で、「ニューヨークアクセントについての誤解」について整理しておきたいと思います。ニューヨークアクセントと聞くと、
と思い込んでいる学習者も多いのではないでしょうか?自分もかつてはそのように考えていました。
しかし、僕がニューヨークに住んでいた経験と、友人のニューヨーカーから聞く限り、これは真実でないと思います。実際、
と言えると思います。
サラ
らいおん
New York Accentとは
では、本記事前半で説明した「ニューヨークアクセント」とは一体何なのでしょうか?以下、ニューヨーカーの友人による「ニューヨークアクセントの実際」を整理したいと思います。
本記事で紹介したアクセントの特徴は主に
と呼ばれる「コテコテのニューヨーク訛り」の特徴です。しばしば working class(労働者階級)アクセントと連想されることも多い訛りです。映画やテレビで「コテコテのニューヨーク訛り」が取り上げられることも多いですが、友人の複数のニューヨーカーに聞いてみると、
だと言うのです。
ニューヨークアクセントの実際
本記事でここまで解説したことと、友達のニューヨーカーの話をまとめると以下のように整理できます。
- 一般的にみんなが思い描いているニューヨークアクセントは、”コテコテのニューヨークアクセント”を指していることがほとんどで、それは”Stereotypical New York Accent“と呼べるものだ
- 特に若い世代では “Stereotypical New York Accent” で話す人は非常に少ない
- “Stereotypical New York Accent” は話者の “race” =「人種」 がかなり関係していると思う。具体的には、親の世代など代々ニューヨーク市出身の、特にイタリア系アメリカ人、ユダヤ系アメリカ人などがほとんどだ
- 以下で説明するような “Stereotypical New York Accent” の特徴を全て持ち合わせているようなニューヨーカーはほとんどお目にかかれないだろう
ニューヨークアクセントの複雑さについて
上の表のまとめは、僕の友人のあくまで個人の見解です。”絶対”ではありませんが、参考になると思うので彼のコメントをもう少し紹介すると、ニューヨーカーから見て、本記事前半で紹介したニューヨークアクセントの特徴は全くピンとこないものもあるそうです。
具体的には
ネットにあるようなニューヨークアクセントの特徴は
と言っていました。
これらを踏まえると、ニューヨークアクセントは複雑で、”絶対”と言えるような決まりやルールに落とし込むことはかなり難しいと思います。よって、本記事前半で紹介したことは絶対でなく、あくまで数あるニューヨークアクセントについてのまとめの1つとして参考にしていただければと思います。
サラ
Bernie Sanders の New York Accent
さて、最後にニューヨークアクセントを語る上でこの人は避けて通れない、という2人を紹介します。ニューヨークアクセントと言えば、で有名人としては Bernie Sanders を思い浮かべる人も多いかもしれません。以下のVoxの動画はかなり分かりやすくまとまっているのでぜひ見てみましょう。
Donald Trump と Bernie Sanders のニューヨークアクセントの比較分析
さて、Donald Trump と Bernie Sanders は2人ともニューヨーク市出身でニューヨークアクセントが有名です。上のVoxの Bernie Sanders の動画でも触れられていますが、Bernie Sanders の方がトランプ大統領大統領よりも “heavier” なニューヨークアクセントであると言われます。
らいおん
以下のツイートで記事の一部をまとめているのですが、トランプ大統領は演説の聴衆によってR音の有無などを変えていて、
というのです。これはニューヨークアクセントの特徴とも合致しており、記事ではトランプ大統領は Bernie Sanders よりも “stylistically much more adaptable” であると述べています。
これもおもしろい⤵︎
Bernie Sanders と Donald Trump のアクセント分析https://t.co/Sv3E5Sqnvq https://t.co/5lysqavlTI
— サラ🌐 らいひよ®(オンライン英語スクール)代表 (@salah_backpack) January 8, 2020
ひよこ
さて、ここまででニューヨークアクセントの発音的な主な特徴を紹介しましたが、以下の Wikipedia の New York accent の記事がかなり詳しいのでそちらもご覧ください。
参考 New York accentWikipediaまた、以下のサイトのまとめも簡潔で分かりやすいのでぜひ参考にしてみましょう。
参考 How to Talk Like a Stereotypical New YorkerwikiHow
さらに詳しく学びたい方は JC Wells著 Accents of English 3 Beyond the British Isles も読んでみましょう。
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らいおん