【徹底解説】ニューヨークアクセント(訛り)の特徴とは:Stereotypical New York Accent

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らいおん

ニューヨークアクセント」について、英語学習者が知っておきたいことを整理するよ!
この記事では “stereotypical New York Accent” について考えてみるよ!

ひよこ

この記事を書いた人

サラ

英語ジム らいおんとひよこ®代表
・コロンビア大学 大学院卒:英語教授法修士
・ETS (Educational Testing Service) 米国本社の元問題作成者

 

本記事の構成

この記事では、まずざっくり「ニューヨークアクセントの特徴」を整理し、その後記事後半では英語学習者が知っておきたい「ニューヨークアクセントについての注意点」について深堀りしていきたいと思います。

大学院留学中に実際にニューヨーク市に住んでいた経験と、複数のニューヨーカーに聞き取りをした彼らのコメントも記事後半でシェアしていきます!

サラ

 

ニューヨークアクセントとは

さて、まず New York Accent とはですが、New York City = 「ニューヨーク市」(とその近隣地域)で話される訛りのことを指します。後述しますが、ニューヨーク市には5つの区があり、主にその中で話されているアクセントです。本記事では

ニューヨークアクセント 

と呼びます。ニューヨークアクセントはアメリカ英語の方言の中でも特に特徴が顕著な方言の1つだと言われています。

 

ニューヨークアクセントの特徴

ニューヨークアクセントは様々な特徴がありますが、まず箇条書きでまとめてみましょう。以下のような特徴があると言われています。

ニューヨークアクセントの主な特徴
  1. coffee vowel:coffee → cawwfee に
  2. /æ/ raising and tensing :/æ/ → /ɛə/ や /eə/ ( or to /ɪə/ ) に
  3. morningなどのR音を発音しない:non-rhoticity (or r-lessness)
  4. R音の挿入:r insertion (intrusive r)
  5. H音の脱落:h dropping
  6. /θ/ /ð/→ /t/ /d/ に:th-stopping
  7. hard g
  8. 語尾脱落
  9. curl と coil が同じ音に:coil–curl merger
  10. ニューヨーク特有の語彙
  11. 鼻にかかった感じ:nasality
  12. 番外編:速い発話スピード(特にマンハッタン)

らいおん

以下でそれぞれの特徴を簡単に見ていくよ!

 

coffee vowel:coffee → cawwfee に

まずは最も有名な特徴の1つであると言える coffee や talk の母音についてです。ニューヨークアクセントでは

  • talk → tawwk
  • coffee → cawwfee

のように /ɔ/ の音の緊張度が高く、舌が引き上げられ母音が引き伸ばされます

/ɔ/ の音がまるで /oə/ や  /ʊə/ のようにも発音される

とも言われます。

 

/æ/ raising and tensing :/æ/ → /ɛə/ や /eə/ ( or to /ɪə/ ) に

次は cab /kæb/ など語の /æ/ の母音の発音についてです。/æ/ の音が舌が上寄りに持ち上げられ、緊張を伴い

cab → ca + ahb のように /æ/ → /ɛə/ または /eə/と二重母音のような音になる

と言われています。

このようになる語は他にも class, mad, lag, pan など様々な語がありますが、

/æ/ の音が /n/, /m/, /f/, /θ/, /s/, /ʃ/, /b/, /g/ /d/ などの前にある環境で起こる

ようです。

あわせて読みたい
/ɛ/ と /e/ ( /eɪ/ ) の発音の違いについては以下の記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。 /e//ɛ/ と /e/ ( /eɪ/ ) の発音の違い・発音のコツ:音声学書籍を比較解説!

 

morningなどのR音を発音しない:non-rhoticity (or r-lessness)

アメリカ英語では基本的には park や better などのR音を発音しますが、ニューヨークアクセントでは

  • morning → mawning
  • river → rivva

のようにR音がない発音が聞かれます。

 

R音の挿入:r insertion (intrusive r)

morning などでR音を発音しないと思いきや、

  • idea → idear
  • soda → soder

などのように、本来R音がないところにRを挿入して発音するということもあるようです。このような現象は

r insertionintrusive r

と呼ばれます。

 

H音の脱落:h dropping

H音が脱落し、

  • huge /hjuːdʒ/ → yuge /juːdʒ/
  • human /hjuːmən/ → yuman /juːmən/

のように発音される

h dropping

が起こることもあります。

本記事後半でも紹介するけどトランプ大統領が huge をyuge と発音するのはけっこう有名だね!

ひよこ

 

/θ/ /ð/ → /t/ /d/ に:th-stopping

/θ/ /ð/ などの th音が /t/ /d/ になる th-stopping という現象が起こります。これによって

the → da

のようになります。

 

hard g

本来強く破裂する /g/ がないところで /g/ が発音されることがあります。例えば

Long Island → Lawn Guyland

のように hard g になります。Long の発音は本来 /lɔːŋ/ なので、 /ŋ/ の音で /g/ ではないのですが、Long Island で /g/ 音になっています。

同様に、singer/ˈsɪŋɚ/ の発音も本来 /ŋ/ の音なのですが hard g で -ger /-gɚ/ と発音されることもあるようです。

 

語尾脱落

going → goincalling → callin のように語尾が脱落します。

 

curl と coil が同じ音に:coil–curl merger

かなり衝撃的な変化ですが、

  • thirty-third → toity-toid
  • curl → coil

のように /ɚː/ 音が変化することがあります。この時は、/ɔɪ/ というより /əɪ/ に近い音で発音されるようですが、現在では一部のコテコテニューヨーク訛りの人を除いてはなりすたれてきている現象のようです。

あわせて読みたい
ɚ の発音については以下の記事も参考にしてください。 lasting influence【アメリカ英語の全母音】発音&発音記号の解説

 

ニューヨーク特有の語彙

語彙の違いもあります。例えば、

  • Are you on line? (列に並んでますか?)
  • Fuhgeddaboudit (Forget about it を表す有名なニューヨーク的なフレーズ)

などが有名です。

あわせて読みたい
Are you on line? については以下の記事でも解説しています。「列に並んでますか?」の前置詞は基本的に in が使われることが多いですが、ニューヨーカーは on を使います。 Are you on line? はニューヨーク方言?!
僕もニューヨークに住んでいた時は Are you on line? を何度も聞きました!

サラ

 

鼻にかかった感じ:nasality

特に強いニューヨーク訛りは「鼻にかかった感じ」がある = nasality と感じる人も多いようです。

 

ニューヨーカーは発話スピードが速い?

ニューヨーカーは「発話スピード」が速いというイメージを持っている人もいると思います。特にマンハッタンでは”速い”発話スピードのニューヨーカーも多いともよく言われます。

このイメージ自体は間違いとは言えないと思いますが、実際に 全米での発話スピードを調べた調査などでは、ニューヨークは話すスピードで全米トップ5にも入らなかったというデータもあります。ちなみに1番話すのが速かったのはオレゴン州

 

ニューヨーカーはおしゃべり

ただ、ニューヨークは Most Talkative 部門で1位になっています。よって、ニューヨーカーは総じておしゃべりであるとは言えそうですが、発話スピードはあくまでも個人差が大きいと言えるかと思います。

NOTE
ちなみに、ニューヨーカーは、同じ内容を話すアイオワ州の人より62%も多くの言葉を使うという結果になったそうです。

らいおん

詳しく知りたい人は以下の記事も読んでみよう!
参考 These are the states with the fastest talkers (New York isn’t one of them)The Washington Post

 

ニューヨークの5つの区:5 boroughs

さて、ここまでで、ニューヨークアクセントの主な特徴をカバーしましたが、ここでニューヨークを語る上で避けては通れないニューヨーク市の5つの区について触れておきましょう。

ニューヨーク市には5つの borough =「ニューヨーク市の5つの区」があり、

Manhattan, the Bronx, Brooklyn, Queens, Staten Island

の5つを指すのですが、この5つの区によってニューヨークアクセントは異なる、と言われることもあります。

Wikipediaの Boroughs of New York City より

ちなみに borough は /ˈbɚːroʊ/ と発音するよ!

ひよこ

 

The accents of the 5 boroughs of NYC

以下の動画では実際にニューヨーカーが5つの句によるアクセントの違いのイメージをデモしてくれています。あくまで目安として参考にしてみてください。

注意
それぞれの borough の地理的な違いでアクセントにそれぞれ特徴があると言われることもありますが、borough の地理的な差というよりは話者の socioeconomic differences (社会経済的な差)や人種(後述)がアクセントの違いにはより関係している、との見方もあるようです。

 

らいおん

ここまででニューヨークアクセントの主な特徴を紹介しましたが、ここからは英語学習者が知っておきたい“注意点”についてお話しようと思います!
ニューヨークアクセントについて“誤解されている”とも言えることもあると思うので注意しよう!

ひよこ

 

ニューヨーカーは本当にニューヨークアクセントで話すの?

さて、実はここからがある意味で本題で、「ニューヨークアクセントについての誤解」について整理しておきたいと思います。ニューヨークアクセントと聞くと、

ニューヨーク出身の英語ネイティブは必ずニューヨークアクセントを持っている

と思い込んでいる学習者も多いのではないでしょうか?自分もかつてはそのように考えていました。

しかし、僕がニューヨークに住んでいた経験と、友人のニューヨーカーから聞く限り、これは真実でないと思います。実際、

特に若い世代のニューヨーカーは全くニューヨークアクセントを持っていないことも多い

と言えると思います。

コロンビア大学でのクラスメイトだった友人(20代)は生まれも育ちもブルックリンのニューヨーカーですが、本人は、「自分は全くニューヨークアクセントはない」「米国内を旅行していてもニューヨークアクセントだねと言われたことは今までに一度もない」「強いて言えば、ニューヨークスラングをたまに使うくらいだ」と言っています。

サラ

らいおん

大学院留学中、約2年ニューヨーク市に住んでいたけど、実際はいわゆるコテコテのニューヨークアクセントで話す人はかなり減ってきていると感じるよ!

 

New York Accentとは

では、本記事前半で説明した「ニューヨークアクセント」とは一体何なのでしょうか?以下、ニューヨーカーの友人による「ニューヨークアクセントの実際」を整理したいと思います。

本記事で紹介したアクセントの特徴は主に

 “Stereotypical New York Accent” 

と呼ばれる「コテコテのニューヨーク訛り」の特徴です。しばしば working class(労働者階級)アクセントと連想されることも多い訛りです。映画やテレビで「コテコテのニューヨーク訛り」が取り上げられることも多いですが、友人の複数のニューヨーカーに聞いてみると、

みんなが想像しているニューヨークアクセントはかなり誇張されたコテコテの訛り

だと言うのです。

 

ニューヨークアクセントの実際

本記事でここまで解説したことと、友達のニューヨーカーの話をまとめると以下のように整理できます。

ニューヨークアクセントの実際
  • 一般的にみんなが思い描いているニューヨークアクセントは、”コテコテのニューヨークアクセント”を指していることがほとんどで、それは”Stereotypical New York Accent“と呼べるものだ
  • 特に若い世代では “Stereotypical New York Accent” で話す人は非常に少ない
  • “Stereotypical New York Accent” は話者の “race” =「人種」 がかなり関係していると思う。具体的には、親の世代など代々ニューヨーク市出身の、特にイタリア系アメリカ人、ユダヤ系アメリカ人などがほとんど
  • 以下で説明するような “Stereotypical New York Accent” の特徴を全て持ち合わせているようなニューヨーカーはほとんどお目にかかれないだろう

 

ニューヨークアクセントの複雑さについて

上の表のまとめは、僕の友人のあくまで個人の見解です。”絶対”ではありませんが、参考になると思うので彼のコメントをもう少し紹介すると、ニューヨーカーから見て、本記事前半で紹介したニューヨークアクセントの特徴は全くピンとこないものもあるそうです。

具体的には

idea → idear のようになることなど、ニューヨークで聞いたことがない

ネットにあるようなニューヨークアクセントの特徴は

特にイタリア系アメリカ人、ユダヤ系アメリカ人の訛りであることがほとんど

と言っていました。

これらを踏まえると、ニューヨークアクセントは複雑で、”絶対”と言えるような決まりやルールに落とし込むことはかなり難しいと思います。よって、本記事前半で紹介したことは絶対でなく、あくまで数あるニューヨークアクセントについてのまとめの1つとして参考にしていただければと思います。

とは言え、この記事はインターネット上のニューヨークアクセントについての記事を読み込み、ニューヨーカーの複数の友人に聞き込みをした上で自分なりの検証をした上で書いています。発音好きな英語学習者が知っておきたい情報は本記事でほぼカバーしたはずです。

サラ

 

Bernie Sanders の New York Accent

さて、最後にニューヨークアクセントを語る上でこの人は避けて通れない、という2人を紹介します。ニューヨークアクセントと言えば、で有名人としては Bernie Sanders を思い浮かべる人も多いかもしれません。以下のVoxの動画はかなり分かりやすくまとまっているのでぜひ見てみましょう。

 

 

Donald Trump と Bernie Sanders のニューヨークアクセントの比較分析

さて、Donald Trump と Bernie Sanders は2人ともニューヨーク市出身でニューヨークアクセントが有名です。上のVoxの Bernie Sanders の動画でも触れられていますが、Bernie Sanders の方がトランプ大統領大統領よりも “heavier” なニューヨークアクセントであると言われます。

らいおん

このことに関して、2人のニューヨークアクセントを比較した面白い記事があるのでシェアするよ!
参考 Two Candidates – One AccentThe University of Texas at Austin

 

以下のツイートで記事の一部をまとめているのですが、トランプ大統領は演説の聴衆によってR音の有無などを変えていて、

ニューヨークの聴衆の前では語尾などのR音の使用を少なくしている

というのです。これはニューヨークアクセントの特徴とも合致しており、記事ではトランプ大統領は Bernie Sanders よりも “stylistically much more adaptable” であると述べています。

非常に興味深い記事なのでぜひ読んでみてね!

ひよこ

 

さて、ここまででニューヨークアクセントの発音的な主な特徴を紹介しましたが、以下の Wikipedia の New York accent の記事がかなり詳しいのでそちらもご覧ください。

参考 New York accentWikipedia

また、以下のサイトのまとめも簡潔で分かりやすいのでぜひ参考にしてみましょう。

参考 How to Talk Like a Stereotypical New YorkerwikiHow
あわせて読みたい
アメリカ英語発音の地域差に興味がある方は以下の Harvard Dialect Survey についての記事もぜひご覧ください! Harvard Dialect Survey でアメリカ英語発音の地域差を深堀り

 

さらに詳しく学びたい方は JC Wells著 Accents of English 3 Beyond the British Isles も読んでみましょう。

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らいおん

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